ISM景況指数は、アメリカ企業への調査をもとに、企業活動の方向を示す経済指標です。
製造業とサービス業の指標が毎月発表され、アメリカの景気や金融政策の見通しに影響するため、FX市場でも注目されています。
為替相場では、50との位置だけでなく、市場予想との差や、新規受注・雇用・価格などの内訳も重要です。
この記事では、ISM景況指数の基本、製造業とサービス業の違い、内訳の見方、米金利やドル円への影響を初心者向けに解説します。
ISM景況指数とは
一般に日本では、ISMが公表する製造業PMIとサービス業PMIをまとめて「ISM景況指数」と呼びます。
ISMは「Institute for Supply Management」の略で、日本語では米国供給管理協会と呼ばれます。
ISMが公表するアメリカの景気指標
ISMは、企業の購買・供給管理担当者などに対して、新規受注、生産、雇用、価格などが前月からどのように変化したかを調査します。
回答は、主に次の3つに分けられます。
・前月より改善した
・前月と変わらない
・前月より悪化した
これらの回答をもとに、企業活動が拡大方向にあるのか、縮小方向にあるのかを指数で示します。
実際の売上高や生産額を集計する統計とは異なり、企業への調査をもとにしているため、景気の変化を比較的早く確認しやすいことが特徴です。
ISM製造業PMIとサービス業PMIがある
ISMが公表する代表的な指標には、次の2つがあります。
| 指標 | 主な対象 |
|---|---|
| ISM製造業PMI | 工場やメーカーなどの製造業 |
| ISMサービス業PMI | 金融、小売、運輸、情報、宿泊などのサービス業 |
経済指標カレンダーでは、「ISM製造業景況指数」「ISM非製造業景況指数」などと表示される場合もあります。
「ISM非製造業景況指数」は、ISMサービス業PMIを指す名称として使われることがあります。
ISM景況指数は毎月発表される
ISM製造業PMIとサービス業PMIは、それぞれ毎月発表されます。
製造業とサービス業では発表日が異なるため、経済指標カレンダーで個別に確認しましょう。
発表時刻の前後は、米ドルやドル円が大きく動く場合があるため、日本時間も確認しておくことが大切です。
ISMの「50」は何を意味する?
ISMを見るときの基準は50です。
ただし、ISMの数値は経済成長率を示すものではありません。
50を上回ると企業活動の拡大を示す
ISMが50を上回ると、企業活動が前月から拡大している方向を示します。
50を上回る状態が続けば、企業活動が比較的底堅いと判断されることがあります。
50を下回ると企業活動の縮小を示す
ISMが50を下回ると、企業活動が前月から縮小している方向を示します。
50未満の状態が続けば、アメリカの景気減速への警戒が強まることがあります。
ただし、一度50を下回っただけで、アメリカ経済が景気後退に入ったと断定することはできません。
ISMは経済成長率ではない
ISMは、企業活動の方向や勢いを確認するための指数です。
ISMが55だからアメリカ経済が55%成長した、45だから5%縮小したという意味ではありません。
50との位置や前回からの変化を確認して、企業活動の方向を判断します。
50との位置だけでなく前回からの変化も確認する
ISMを見るときは、50を上回ったか、下回ったかだけでなく、前回から上昇したか、低下したかも確認します。
| 前回 | 今回 | 基本的な見方 |
|---|---|---|
| 53 | 51 | 拡大は続いているが勢いは鈍化 |
| 48 | 49 | 縮小は続いているが悪化ペースは緩和 |
| 49 | 51 | 縮小から拡大へ転換 |
| 51 | 49 | 拡大から縮小へ転換 |
50を上回っていても低下が続けば、企業活動の勢いが弱まっている可能性があります。
反対に、50未満でも上昇が続いていれば、景気悪化のペースが緩んでいると判断される場合があります。
ISM製造業PMIとサービス業PMIの違い
ISM製造業PMIとサービス業PMIでは、調査対象となる業種が異なります。
アメリカ経済を確認するときは、両方を見ることが大切です。
ISM製造業PMIとは
ISM製造業PMIは、工場やメーカーなど、製造業の企業活動を示す指標です。
新規受注、生産、雇用、在庫、価格、供給業者の納期などが調査されます。
海外需要や原材料価格、供給網の変化を確認する材料としても注目されます。
ISMサービス業PMIとは
ISMサービス業PMIは、サービス分野の企業活動を示す指標です。
アメリカではサービス業の比重が大きいため、事業活動、雇用、価格などの内訳も重要視されます。
製造業とサービス業の方向が異なることもある
製造業PMIが50を下回っていても、サービス業PMIが50を上回る場合があります。
反対に、製造業が改善していても、サービス業が弱くなることがあります。
どちらか一方だけでアメリカ経済全体を判断せず、製造業とサービス業の両方を確認しましょう。
ISMで注目される主な内訳
ISMでは、総合指数だけでなく、新規受注、雇用、価格などの内訳も公表されます。
市場が景気、雇用、インフレのどれに注目しているかによって、重視される内訳は変わります。
新規受注指数
新規受注指数は、企業に入る新しい注文が前月から増えたのか、減ったのかを示します。
新規受注が増えれば、今後の生産や事業活動も拡大する可能性があります。
反対に、新規受注の低下が続けば、将来の企業活動が弱まる可能性があります。
そのため、新規受注指数は景気の先行きを確認する材料として注目されます。
ISMの新規受注指数が先行材料として扱われる理由や、先行指標・一致指標・遅行指標の違いについては、「先行指標・一致指標・遅行指標とは?」の記事で詳しく解説しています。
ISMの新規受注指数は、企業へのアンケートをもとに、注文が増えているか減っているかという方向を示します。
一方、製造業者が実際に受けた耐久財の新規受注額や、企業設備投資の先行きを示すコア資本財受注については、「米耐久財受注とは?」の記事で詳しく解説しています。
生産指数・事業活動指数
製造業では生産指数、サービス業では事業活動に関する指数が注目されます。
生産指数は、工場などの生産活動が前月から拡大したのか、縮小したのかを示します。
事業活動指数は、サービス分野の企業活動の変化を確認する材料になります。
ISM製造業PMIの生産指数は、企業へのアンケートをもとに、生産活動が拡大方向にあるのか、縮小方向にあるのかを示します。
一方、製造業・鉱業・公益事業における実際の生産活動や、設備稼働率の見方については、「米鉱工業生産とは?」の記事で詳しく解説しています。
雇用指数
雇用指数は、企業の雇用活動が前月から拡大したのか、縮小したのかを示します。
雇用指数が上昇すれば、企業が採用を増やしている可能性があります。
反対に低下が続けば、企業が雇用に慎重になっている場合があります。
ただし、ISMの雇用指数だけで米雇用統計の結果を正確に予測できるわけではありません。
米雇用統計の見方については、「米雇用統計とは?」の記事で詳しく解説しています。
価格指数
価格指数は、企業が購入する原材料やサービスの価格が、前月から上昇したのか、低下したのかを示します。
CPIのように、物価が何%上昇したのかを直接示す指標ではありません。
価格指数が上昇すると、企業のコスト負担やインフレ圧力が強まっている可能性があります。
価格上昇が続けば、FRBが利下げを急がないとの見方につながる場合があります。
反対に、価格指数が低下すれば、インフレ圧力の緩和が意識されることがあります。
物価指標と金融政策の関係については、「米CPIとは?」の記事でも解説しています。
入荷遅延・在庫などの指数
ISMでは、供給業者の納期や在庫に関する指数も確認できます。
納期の遅れは、需要が強く供給が追いついていないときに発生する場合があります。
一方で、供給網の混乱、自然災害、物流の停滞などによっても納期が遅れることがあります。
納期の遅れを、必ず景気の強さと判断しないよう注意が必要です。
S&P GlobalのPMIとISM景況指数の違い
アメリカでは、S&P Globalが公表するPMIと、ISMが公表する景況指数の両方が注目されます。
どちらも企業への調査をもとにしていますが、同じ指標ではありません。
公表機関や調査対象が異なる
S&P GlobalのPMIとISM景況指数は、公表する組織、調査対象、算出方法、公表時期などが異なります。
同じ月でも結果が一致しない場合があるため、それぞれを前回値や市場予想と比較することが大切です。
アメリカでは両方を確認する
両方が同じ方向を示していれば、景気に対する見方が強まりやすくなります。
反対に、方向が異なる場合は、調査対象や新規受注、雇用、価格などの内訳を確認しましょう。
PMI全体の種類や基本的な見方については、「PMIとは?」の記事で詳しく解説しています。
ISMがFX・ドル円に影響する理由
ISMは、アメリカの景気やFRBの金融政策に対する予想を変化させるため、米ドルやドル円に影響することがあります。
アメリカの景気の強さを判断する材料になる
ISMが市場予想を上回ると、アメリカの企業活動が予想より強いと判断される場合があります。
反対に、市場予想を下回る結果が続けば、景気減速への警戒が強まることがあります。
毎月発表されるため、アメリカの景気変化を比較的早く確認できる点も注目される理由です。
金融政策の予想や米金利が変化する
強いISMによって景気が底堅いと判断されれば、FRBが利下げを急ぐ必要はないとの見方が強まることがあります。
反対に、ISMが弱ければ、景気を支えるための利下げ観測が強まる場合があります。
金融政策に対する予想が変わると、米国債利回りも動きやすくなります。
米金利の変化を通じてドル円が動く
ISMの結果によって米国債利回りが上昇すると、米ドルが買われ、ドル円が上昇することがあります。
反対に、米国債利回りが低下すると、米ドルが売られ、ドル円が下落する場合があります。
ただし、ドル円は日銀の政策や日本の金利などからも影響を受けます。
政策金利と為替の関係については、「政策金利とは?」の記事で詳しく解説しています。
ISMの結果の見方
ISMを見るときは、前回値、市場予想、結果を比較し、重要な内訳を確認します。
前回値・市場予想・結果を比較する
経済指標カレンダーには、一般的に次の数値が表示されます。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 前回値 | 前回発表されたISM |
| 市場予想 | 発表前に市場で予想されている数値 |
| 結果 | 今回実際に発表された数値 |
為替相場では、前回値との比較だけでなく、市場予想との差が重視されます。
50との位置と市場予想との差を確認する
最初に、結果が50より上か下かを確認します。
ただし、為替相場では50との位置だけでなく、市場予想との差が重要です。
50を上回っていても市場予想を下回れば米ドルが売られ、50未満でも市場予想を上回れば米ドルが買われる場合があります。
市場予想との比較に加えて、前回からの変化や数か月の上昇・低下傾向も確認しましょう。
新規受注・雇用・価格などの内訳を確認する
総合指数が強くても、新規受注や雇用が弱い場合があります。
反対に、総合指数が弱くても、新規受注などの先行性がある項目が改善している場合があります。
市場がインフレに注目しているときは価格指数、米雇用統計を意識しているときは雇用指数が重視されることがあります。
ISMとドル円の基本的な関係
ISMとドル円には、一般的に次のような関係があります。
ただし、実際の値動きが必ずこのとおりになるわけではありません。
予想を上回るISMではドル高・円安が意識されることがある
ISMが市場予想を上回ると、アメリカの景気が予想より強いと判断されることがあります。
利下げ観測の後退や米国債利回りの上昇を通じて、米ドルが買われ、ドル円が上昇する場合があります。
予想を下回るISMではドル安・円高が意識されることがある
ISMが市場予想を下回ると、アメリカの景気減速への警戒が強まることがあります。
利下げ観測が強まり、米国債利回りが低下すれば、米ドルが売られ、ドル円が下落する場合があります。
総合指数と内訳が異なると値動きが反転することがある
発表直後は総合指数に反応して、米ドルが大きく動く場合があります。
その後、新規受注、雇用、価格などの内訳が確認され、最初と反対方向へ動くことがあります。
総合指数だけで判断せず、重要な内訳も確認しましょう。
強いISMでもドル高にならない理由
ISMが市場予想を上回っても、必ずドル高・円安になるわけではありません。
強い結果が事前に織り込まれている
強いISMが事前に予想され、発表前から米ドルが買われている場合があります。
実際の結果が市場予想どおりであれば、新しい買い材料にならず、米ドルが上昇しないことがあります。
発表後に利益確定の売りが出て、ドル円が下落する場合もあります。
内訳やほかの経済指標が弱いことがある
総合指数が市場予想を上回っても、新規受注や雇用が弱い場合があります。
また、ISMが強くても、米CPIや米雇用統計などが弱ければ、FRBの金融政策見通しが変わらないことがあります。
市場が景気、雇用、インフレのどれを重視しているのかを確認することが大切です。
FRBの政策姿勢や日本側の材料が優先されることがある
ISMが強くても、FRBが利下げに前向きな姿勢を示していれば、米ドルが買われない場合があります。
ドル円では、日銀の利上げ観測、日本の国債利回り、為替介入への警戒なども重要です。
アメリカ側のISMだけを見て、ドル円の方向を決めつけないようにしましょう。
ISMに限らず、強い経済指標でも、事前の織り込み、指標の内訳や改定値、金融政策への影響、国債利回り、相手通貨側の材料などによって通貨高にならない場合があります。詳しくは、**「強い経済指標でも通貨高にならない理由」**の記事で解説しています。
ISM発表前後の注意点
ISMの発表前後は、米ドルやドル円が短時間で大きく動くことがあります。
急変動やスリッページが発生することがある
ISMの結果と市場予想との差が大きい場合には、米ドルやドル円が急激に上昇・下落することがあります。
相場が急変すると、注文した価格と実際に取引が成立した価格に差が生じる場合があります。
この価格差をスリッページといいます。
損切り注文を設定していても、指定した価格から離れた位置で約定する可能性があるため注意が必要です。
スプレッドが広がることがある
スプレッドとは、FXの売値と買値の差です。
ISMの発表前後には、通常時よりスプレッドが広がる場合があります。
スプレッドが広がると取引コストが増え、注文直後から通常より大きな含み損になる可能性があります。
複数の内訳で値動きが反転することがある
発表直後は総合指数に反応し、その後、新規受注、雇用、価格などの内訳を受けて相場が反転することがあります。
最初の値動きを追いかけず、内訳が確認されるまで待つ方法もあります。
発表直後の取引を避ける選択肢もある
ISMの結果や発表直後の値動きを正確に予測することは困難です。
必ず取引を避けなければならないわけではありませんが、総合指数や内訳を確認し、値動きが落ち着くまで待つ方法もあります。
初心者は、発表直後の大きな値動きを無理に狙わず、資金管理を優先しましょう。
FX初心者がISMを確認する手順
ISMを見るときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
発表日時とISMの種類を確認する
最初に、経済指標カレンダーで発表日と日本時間を確認します。
ISM製造業PMIとサービス業PMIのどちらが発表されるのかも確認しておきましょう。
50との位置、前回値、市場予想、結果を比較する
発表前に前回値と市場予想を確認します。
発表後は、結果が50より上か下か、市場予想を上回ったのか下回ったのか、前回から上昇したのか低下したのかを整理します。
新規受注・雇用・価格などの内訳を確認する
総合指数だけでなく、新規受注、雇用、価格などの内訳を確認します。
市場が景気、雇用、インフレのどれに注目しているのかも考えましょう。
米国債利回りとドル円の反応を確認して記録する
発表後の米国債利回りとドル円の動きを確認します。
米国債利回りが上昇し、ドル円も上昇していれば、市場が結果を強いと受け止めた可能性があります。
反対に、米国債利回りが低下し、ドル円も下落していれば、景気減速への警戒や利下げ観測が強まった可能性があります。
記録する主な項目は次のとおりです。
・製造業またはサービス業
・前回値、市場予想、結果
・新規受注、雇用、価格などの内訳
・発表後の米国債利回りとドル円
記録を続けることで、強いISMでも毎回ドル高になるわけではないことが分かります。
ISM景況指数に関するよくある質問
ISMが50を上回るとドル円は必ず上昇しますか?
必ず上昇するわけではありません。
市場予想との差、内訳、事前の織り込み、FRBや日銀の政策見通しによって、ドル円が下落することもあります。
ISMが50を下回ると景気後退ですか?
一度50を下回っただけで、アメリカ経済が景気後退に入ったと断定することはできません。
数か月の推移やGDP、雇用、個人消費など、ほかの経済指標も確認する必要があります。
ISM製造業PMIとサービス業PMIはどちらが重要ですか?
どちらも重要です。
市場の関心やアメリカの景気状況によって注目度は変わるため、製造業とサービス業の両方を確認しましょう。
ISMの雇用指数で米雇用統計を予測できますか?
ISMの雇用指数は、企業の雇用活動を確認する参考材料になります。
ただし、米雇用統計とは調査方法や対象が異なるため、ISMの雇用指数だけで正確に予測することはできません。
S&P GlobalのPMIとISMはどちらを見ればよいですか?
どちらか一方ではなく、両方を確認することが大切です。
方向が一致しているか、市場予想との差はどうだったか、どの内訳が強かったのかを確認しましょう。
まとめ|ISMは50と市場予想、内訳を確認しよう
一般に日本では、ISMが公表する製造業PMIとサービス業PMIをまとめて「ISM景況指数」と呼びます。
ISMは「Institute for Supply Management」の略で、日本語では米国供給管理協会と呼ばれます。
製造業PMIとサービス業PMIがあり、一般的に50を上回れば拡大、50を下回れば縮小を示します。
為替相場では、50との比較だけでなく、市場予想との差や前回からの変化、新規受注・雇用・価格などの内訳が重要です。
強いISMでも、事前の織り込み、ほかの経済指標、FRBや日銀の政策姿勢によって、ドル高・円安にならない場合があります。
発表後は米国債利回りとドル円の反応を確認し、急変動、スプレッド拡大、スリッページにも注意しましょう。

