英雇用統計は、イギリスの雇用や賃金の状況を確認するための経済指標です。
経済指標カレンダーでは、失業率、失業保険申請件数、平均賃金などがまとめて発表されます。
なかでも平均賃金は、イギリス国内のインフレ圧力を判断する材料として注目され、BOEの金融政策やポンド相場へ影響することがあります。
一般的に、雇用や賃金が市場予想より強ければ、BOEの利下げ観測が後退し、ポンド高材料になる場合があります。反対に、失業率の上昇や賃金上昇率の鈍化は、利下げ観測を強め、ポンド安材料になることがあります。
ただし、失業率、失業保険申請件数、平均賃金が同じ方向の結果になるとは限りません。発表前の織り込みや英CPI、相手側の中央銀行の政策見通しによって、想定と異なる値動きになる場合もあります。
この記事では、英雇用統計の主な項目、失業率と失業保険申請件数の違い、平均賃金の見方、BOEの金融政策やポンド相場への影響を初心者向けに解説します。
FXで注目される主な経済指標については、「FXで重要な経済指標とは?」の記事で詳しく解説しています。
英雇用統計とは
ONSが毎月公表する労働市場統計
英雇用統計とは、イギリスの雇用、失業、賃金などの状況を示す統計の総称です。
イギリスの政府統計機関であるONSが、原則として毎月公表しています。
主に次の項目が注目されます。
- 失業率
- 失業保険申請件数
- 平均賃金
- 就業者数・雇用率
- 経済的非活動率
- 求人件数
「英雇用統計」という一つの数字が発表されるのではなく、複数の雇用・賃金指標を組み合わせて、イギリスの労働市場を判断します。
複数の指標で構成され、対象期間も異なる
英雇用統計では、同じ日に発表される項目でも、対象期間が異なる場合があります。
失業率や平均賃金は、直近3か月をまとめた数値として公表されることがあります。一方、失業保険申請件数は、より新しい月の動向を示す場合があります。
そのため、結果を見るときは、数値だけでなく、単月のデータなのか、3か月平均なのかも確認することが大切です。
英雇用統計で特に確認したい3つの項目
失業率
失業率は、労働力人口のうち、失業者が占める割合です。
失業者には、仕事がなく、求職活動を行い、仕事を始められる状態にある人などが含まれます。
一般的には、失業率が低下すれば労働市場が強く、上昇すれば労働市場が弱くなっている可能性があります。
ただし、仕事を探すことをやめた人は、失業者ではなく経済的非活動人口に分類される場合があります。
そのため、失業率だけで雇用環境を判断せず、就業者数や経済的非活動率もあわせて確認しましょう。
失業保険申請件数
経済指標カレンダーで「英失業保険申請件数」と表示される指標は、一般的にClaimant Countを指します。
「申請件数」と表記されますが、実際には、失業を主な理由として求職者手当や一定のユニバーサル・クレジットを受けている申請者数を、行政記録から集計したものです。
経済指標カレンダーでは、主に次の数値が表示されます。
- 申請者数(Claimant Count)の水準
- 前月からの申請者数増減
- 申請者数の割合(Claimant Count rate)
申請者数の割合は、労働力調査を基に算出される一般的な失業率とは異なります。
申請者数が増えれば、失業に関連する給付を受ける人が増え、労働市場が弱くなっている可能性があります。反対に、申請者数が減れば、雇用環境の改善材料として受け止められる場合があります。
ただし、Claimant Countは、アメリカの新規失業保険申請件数のように、新たな申請だけを毎週集計する指標ではありません。
給付制度や受給条件の変更によっても数値が動くため、一般的な失業率とは分けて確認しましょう。
平均賃金
平均賃金は、イギリスの労働者が受け取る賃金の増減を示します。
経済指標カレンダーでは、主に前年比の伸び率が注目されます。
平均賃金には、次の2種類があります。
| 種類 | 主な内容 |
|---|---|
| ボーナスを含む平均賃金 | 基本給、手当、賞与などを含む |
| ボーナスを除く平均賃金 | 賞与を除いた通常の賃金 |
ボーナスを含む平均賃金は、特定の時期に支払われる賞与や、一部業種の高額ボーナスによって大きく変動することがあります。
そのため、基調的な賃金上昇を確認するときは、ボーナスを除く平均賃金も重要です。
就業者数・経済的非活動率・求人件数
英雇用統計では、主要3項目に加えて、次の項目も確認できます。
| 項目 | 主な意味 |
|---|---|
| 就業者数・雇用率 | 仕事に就いている人の数や割合 |
| 経済的非活動率 | 就業も求職活動もしていない人の割合 |
| 求人件数 | 企業が募集している仕事の数 |
求人件数の減少と失業率の上昇が同時に進んでいれば、企業の採用需要や労働市場が弱まっている可能性があります。
また、失業率が低くても経済的非活動率が高い場合は、労働市場から離れている人が多い可能性があります。
失業率と失業保険申請件数の違い
失業率と失業保険申請件数は、どちらも雇用状況を確認する指標ですが、対象者や集計方法が異なります。
| 項目 | 失業率 | 失業保険申請件数 |
|---|---|---|
| 主なデータ | 労働力調査 | 給付制度の行政記録 |
| 主な対象 | 求職中で仕事を始められる失業者 | 失業を主な理由として関連給付を受ける人 |
| 表示方法 | 割合 | 申請者数・前月からの増減 |
| 主な注意点 | 調査に基づく推計 | 給付制度や受給条件の影響を受ける |
失業給付を受けていなくても、求職活動を行っていれば失業者に含まれる場合があります。
反対に、一定の仕事をしていても、条件によっては関連給付を受けている人がClaimant Countに含まれることがあります。
対象者や集計方法が異なるため、失業率が低下する一方で申請者数が増加するなど、両者が異なる方向へ動くこともあります。
また、申請者数の直近月は後から修正される場合があるため、今回の結果だけでなく、前回値の改定も確認しましょう。
英平均賃金の見方
ボーナスを含む賃金と除く賃金を比較する
ボーナスを含む平均賃金は、労働者が受け取る賃金全体を確認できます。
一方、ボーナスを除く平均賃金は、一時的な賞与の影響を受けにくいため、通常の賃金上昇が加速しているのか、鈍化しているのかを判断しやすくなります。
たとえば、ボーナスを含む平均賃金が大きく上昇していても、ボーナスを除く平均賃金が鈍化していれば、基調的な賃金圧力は見出しの数字ほど強くない可能性があります。
平均賃金を見るときは、両方の結果を比較しましょう。
賃金上昇はサービス価格へ波及することがある
サービス業では、人件費が費用に占める割合が比較的大きくなります。
賃金上昇が続くと、企業が人件費の増加を販売価格へ転嫁し、外食、宿泊、交通などのサービス価格が上昇する場合があります。
そのため、BOEは平均賃金を、国内のインフレ圧力や物価上昇の持続性を判断する材料として確認します。
総合CPIが低下していても、賃金とサービス価格が高止まりしていれば、BOEが利下げに慎重になることがあります。
英CPIの総合指数、コア指数、サービス価格の見方については、「英CPIとは?」の記事で詳しく解説しています。
名目賃金と実質賃金の違い
名目賃金は、物価上昇の影響を調整していない賃金です。
実質賃金は、名目賃金から物価上昇の影響を考慮したものです。
名目賃金が増えていても、物価がそれ以上に上昇していれば、家計の実質的な購買力は低下する可能性があります。
反対に、賃金の伸びが物価上昇率を上回れば、購買力が改善し、個人消費を支える材料になることがあります。
FX市場では、BOEのインフレ判断に影響しやすい名目賃金が注目されやすい一方、景気や個人消費を考えるときは実質賃金も参考になります。
英雇用統計の見方と確認する順番
英雇用統計を見るときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 発表日時・対象期間・市場予想を確認する
- ボーナスを除く平均賃金を確認する
- ボーナスを含む平均賃金を確認する
- 失業率を確認する
- 失業保険申請件数を確認する
- 前回値の改定を確認する
- 各項目の方向がそろっているか確認する
- BOEの政策観測、英国債利回り、ポンド相場を確認する
同じ発表日の指標でも、単月と3か月平均が混在する場合があります。最初に対象期間を確認し、異なる期間の数値を単純に比較しないことが大切です。
また、今回の結果だけでなく、市場予想との差と前回値の改定も確認します。
経済指標の前回値、市場予想、結果、改定値を比較する方法については、「経済指標の前回値・予想値・結果・改定値の見方」の記事で詳しく解説しています。
英雇用統計では、複数の結果が異なる方向を示すことがあります。
| 発表内容 | 市場で意識されやすい見方 |
|---|---|
| 失業率が低下し、賃金が加速 | 雇用・賃金ともに強い |
| 失業率が上昇し、賃金が鈍化 | 雇用・賃金ともに弱い |
| 失業率が上昇し、賃金も加速 | 雇用悪化とインフレ圧力が混在 |
| 失業率が低下し、賃金が鈍化 | 雇用は強いが賃金圧力は弱い |
結果がそろっていない場合は、BOEの政策見通しやポンド相場の方向が定まりにくくなることがあります。
発表後は、BOEの政策見通しを反映しやすい英国の短期国債利回りと、ポンド相場が同じ方向へ動いているかも確認しましょう。
英雇用統計とBOE・ポンド相場の関係
英雇用統計は、BOEの政策金利見通しを通じてポンド相場へ影響することがあります。
一般的な関係は、次のとおりです。
| 雇用統計の傾向 | 市場で意識されやすい政策観測 | ポンドへの一般的な影響 |
|---|---|---|
| 賃金が強く、失業率が低い | 利下げ観測の後退、高金利の長期化 | ポンド高材料 |
| 賃金が鈍化し、失業率が上昇 | 利下げ観測の強まり | ポンド安材料 |
賃金上昇が強ければ、人件費やサービス価格の上昇が意識され、BOEが利下げに慎重になる場合があります。一方、失業率の上昇、求人件数の減少、平均賃金の鈍化が続けば、利下げ観測が強まる可能性があります。
ただし、雇用が弱くても英CPIやサービス価格が高い場合には、BOEがすぐに利下げできないことがあります。
BOEの役割、MPCの投票結果、政策金利のバンクレートについては、「BOEとは?」の記事で詳しく解説しています。
通貨ペアでは相手側の中央銀行も比較する
FXでは、英雇用統計だけでなく、通貨ペアを構成する相手側の金融政策も確認します。
| 通貨ペア | 主に比較する中央銀行 |
|---|---|
| ポンドドル | BOEとFRB |
| ポンド円 | BOEと日銀 |
| ユーロポンド | BOEとECB |
英雇用統計が強くても、FRBがBOE以上にタカ派的であれば、米ドルがポンドより買われ、ポンドドルが下落する場合があります。
英雇用統計が弱くても、日銀の利上げ観測が後退すれば、円がポンド以上に売られ、ポンド円が上昇することもあります。
各国の政策金利や金融政策見通しを比較する方法については、「各国の政策金利を比較するときの見方とは?」の記事で詳しく解説しています。
英雇用統計が強くてもポンド高にならない理由
複数の結果が異なる方向を示す
失業率が低下しても、平均賃金が大きく鈍化していれば、BOEの利下げ観測が後退しない場合があります。
反対に、失業率が上昇しても、平均賃金やサービス価格が強ければ、BOEが利下げに慎重になる可能性があります。
前回値の改定を含め、結果が異なる方向を示すと、市場の評価が分かれ、ポンド相場が上下へ振れやすくなります。
強い結果が織り込み済みになっている
市場が強い英雇用統計を事前に予想している場合、発表前からポンドが買われていることがあります。
強い結果がすでに織り込まれ、BOEの政策見通しも変わらなければ、新しいポンド買い材料にならない場合があります。
また、発表前にポンドが大きく上昇していれば、発表後の利益確定によって下落することもあります。
相手側の中央銀行や市場全体の材料が優先される
為替相場は、2つの通貨の相対関係で動きます。
英雇用統計が強くても、FRBがさらにタカ派的であれば、ポンドドルが下落する場合があります。
日銀の利上げ観測や為替介入への警戒が強まれば、ポンド円が下落する可能性もあります。
また、株価の急落、地政学リスク、金融市場の混乱などによって、雇用統計より市場全体のリスク環境が優先されることがあります。
強い経済指標でも通貨高にならない仕組みについては、「強い経済指標でも通貨高にならない理由とは?」の記事で詳しく解説しています。
英雇用統計の発表時期と取引上の注意点
英雇用統計は、原則として毎月公表されます。
実際の発表日と日本時間は変更される可能性があるため、ONSの公表予定やFX会社の経済指標カレンダーで確認しましょう。
英雇用統計の発表前後は、ポンド相場が急変し、スプレッドの拡大やスリッページが発生する場合があります。
また、平均賃金と失業率が異なる方向を示すと、発表直後に一方向へ動いた後、反対方向へ転じることもあります。
FX初心者は、発表直前に新しいポジションを持たず、結果と市場の反応が落ち着くまで様子を見る方法もあります。
英雇用統計に関するよくある質問
英雇用統計とは何ですか?
英雇用統計とは、イギリスの雇用、失業、賃金などの状況を示す統計の総称です。
主に失業率、失業保険申請件数、平均賃金が注目されます。
英雇用統計はいつ発表されますか?
原則として毎月公表されます。
実際の発表日は変更される可能性があるため、ONSの公表予定や経済指標カレンダーで確認しましょう。
失業率と失業保険申請件数は何が違いますか?
失業率は、労働力調査を基に、求職中で仕事を始められる失業者の割合を推計したものです。
失業保険申請件数は、失業を主な理由として関連給付を受けている申請者数を、行政記録から集計したものです。
対象者と集計方法が異なるため、同じ方向へ動くとは限りません。
平均賃金はなぜBOEに注目されますか?
賃金上昇が続くと、企業の人件費を通じてサービス価格を押し上げる可能性があるためです。
BOEは平均賃金を、国内のインフレ圧力や物価上昇の持続性を判断する材料として確認します。
英雇用統計が強いとポンド高になりますか?
必ずポンド高になるわけではありません。
市場予想との差、事前の織り込み、前回値の改定、英CPI、BOEの政策見通し、相手側の中央銀行などによって、強い結果でもポンドが売られる場合があります。
まとめ|失業率・失業保険申請件数・平均賃金を組み合わせて確認しよう
英雇用統計は、イギリスの雇用や賃金の状況を示す統計で、失業率、失業保険申請件数、平均賃金が特に注目されます。
失業率と失業保険申請件数は、対象者や集計方法が異なるため、同じ方向へ動くとは限りません。また、平均賃金では、ボーナスを含む数値と除く数値を比較することが大切です。
強い賃金はBOEの利下げ観測を後退させ、ポンド高材料になる場合があります。反対に、雇用悪化と賃金鈍化は利下げ観測を強め、ポンド安材料になることがあります。
ただし、事前の織り込み、英CPI、前回値の改定、相手側の中央銀行によって、想定どおりに動かないこともあります。
発表後は、BOEの政策観測、英国債利回り、ポンド相場の反応まで確認しましょう。

